謎のレーダーエコー
4月30日早朝、気象庁ホームページの「レーダーナウキャスト」で、朝鮮半島の東の日本海に時間雨量80mmを超す猛烈な降水を表すレーダーエコーが表示されました。しかし、気象衛星画像では、赤線で囲まれた地域には雲はなく、実際に降水がありませんでした。
このため、気象庁は午前10時頃にデータの補正を行うという事例が発生しました。
おりしも、朝鮮半島情勢が緊迫しアメリカの空母が朝鮮半島に向かうと情報もあり、予報士の間ではアメリカ軍の行動の影響ではないかとのジョークも出たところです。
気象レーダーは、アンテナを回転させながら電波を発射し、半径数百kmの範囲にある雨や雪を観測するものです。発射した電波が戻ってくるまでの時間から雨雲などまでの距離や、電波の強さ(レーダーエコー)から雨などの強さを観測します。また、戻ってきた電波の周波数のずれ(ドップラー効果)を利用して、降水域の風を観測することができます。
レーダーの電波は空中をまっすぐ進むため、進路上に山などの障害物があるとその裏側には届きません。また、地球表面は球面のため、遠方では電波が上空を通過し地上付近の雨などは観測できません。
レーダー観測では、実際に降水がなくてもエコーが観測されたり、実際の降水より相当強い降水を表すエコーが観測されることがあります。
レーダーから発射する電波は、一般的には直進して山岳などの上空を通過しますが、下の図のように大気の屈折率の分布状態に応じ電波が曲げられ、通常の伝搬経路から大きく外れることがあり、この現象を「異常伝搬」と呼びます。曲げられた電波が地表面の構造物などに当たって反射すると、降水のないところで強いエコーが現れる場合があります。
「異常伝搬」は、高気圧内の下降気流や夜間の放射冷却、また海陸風による温度の異なる空気の移流など、上空に行くほど気温が上昇すると屈折率が大きくなるため発生します。
また、電波が海上で波しぶきに当たり、降水がないところにエコーが現れる「シークラッタ」や、地形の影響で山岳などに電波が当たり降水のないところでエコーが現れる「グランドクラッタ」が観測されることがあります。
気象庁では、データの管理に十分注意をしていますがこうした事例が発生することがあり、4月30日の現象は「異常伝搬」か「シークラッタ」であったと思われます。
今年初めての黄砂襲来
5月5日の天気図では、中国華北地方に高気圧が、また中国東北地方には低気圧があり、この付近では等圧線が混み強風が吹いています。この強風により、中国華北地方では黄砂が見られ、この後6日から8日にかけて、今年初めての黄砂が日本列島に襲来しました。
全国各地で視程が10km以下になり、鳥取では3km熊本で5kmを観測しました。岐阜でも5月7日8時~8日15時にかけて視程は10km以下になり遠くの景色がかすみ、我が家でも洗濯物が汚れたり、車のフロントガラスの上が黄色くなりました。
本コラム『黄砂の季節』のとおり、黄砂はアジア大陸のゴビ砂漠などの砂漠地帯で、強風により砂塵がまきあげられ、まきあげられた黄砂は上空5000m以上の偏西風に乗り日本付近で降下してくる現象です。3月~5月にかけて多く発生し、近年、黄砂が観測される日数が多くなっています。
一口コラム
■黄砂の観測方法
職員が黄砂で大気がかすんだ状態を目視で確認し、開始、終了及び9時、15時、21時に視程を観測しています。黄砂の濃度と視程の関係は次のとおり、視程が10km以下になると風景がぼんやりかすみ、2km以下になると航空機に影響が出始めます。