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モンゴルの雨はどこから来るのか


モンゴルの雨はどこから来るのか  ~第2回~

  さて、前回の記事でも述べた通り、雨は空気中の水蒸気が風によって運んできたものが雲になって作り出されます。
  つまり、雨となる水は風上から運ばれてくることになります。
そこで、雨が降る前の風向きを調べることで、その雨がどこから来たのかを推定します。
  今回は、モンゴル東部で調査を実施しました。

 
研究対象地点

  降水量のデータは、現地に設置した雨量計のデータを使用します。
  今回は、日本の気象観測所で使用されている転倒升(てんとうます)式雨量計(※)を使用しました。
  ちなみに、現地の気象観測所で使用されているのは、ロシアの標準雨量計であるトレチャコフ式雨量計です。周囲に柵が設置されており、雪のように風で舞い上がりやすい降水を捉えやすい形状をしています。

自動観測システム
雨量、風などの自動観測システム

左:現地に設置した転倒升雨量計(R.M.ヤング社製)
右:トレチャコフ式雨量計
(国際大気研究センター(NCAR Winter Weather Group)より)

  次に、雨が観測された時の上空の風速・風向のデータを使って、雨になった水の移動経路を風上の方向へと辿っていきます。

  下図は、2003年夏にモンゴルで降った雨の輸送ルートを線で繋いだものです。上空の風や低気圧の影響を受けて、大きく蛇行しながら運ばれてきていることが分かります。


モンゴルで降った雨の輸送経路(例)

  このようにして、2003年から2009年までの全ての雨について、蒸発した場所を調べました。
   その結果、モンゴルの夏の雨の約70%が陸地から蒸発した水であることが分かりました。また、地域別に見ると、約20%がモンゴルの周辺地域、約30%がユーラシア大陸中央部・西部から蒸発した水でした。

夏の夕方。
雨の起源の分布(赤色:モンゴルに多く雨を供給した領域)



  なぜ、海から蒸発した水が少ないのでしょうか?
  それはモンゴルの場所が関係しています。

  ユーラシア大陸の上空には強い西風(偏西風)が吹いています。大西洋や地中海で蒸発した水は、この風に乗って東へ運ばれて行きますが、大陸上は太陽の熱で暖められた地表面から上昇気流が発生し、雨が降りやすい状態になっています。
  そのため、大陸上空を通る水は途中で雨になって地上に降り、再び蒸発するということを繰り返しながら、大陸を西から東へと移動します。
  その結果、内陸にあるモンゴルでは陸地起源の雨が多くなるのです。

  このような地球上の水の動きは、常に同じとは限りません。地域や季節、地球温暖化などの環境変化によって少しずつ変化し、ひいては私たち人間の活動や生態系にも影響すると言われています。
  しかしながら、実際にどのような仕組みで、どのような問題が起こるのかについては、必ずしも明らかになっていません。

  地球上の水の動きを一つ一つ捉えていくことで、将来の水環境問題の解決の糸口に結び付けたいと考えています。

 

※転倒升式雨量計の構造は、気象庁Webサイト参照
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/b1.html

研究指導:筑波大学アイソトープ環境動態研究センター 浅沼 順 教授


  環境ソリューション本部 防災技術部 小池百合子